小さい頃…暗闇が怖かった。













吸い込まれてしまうようなあの深い深い色が怖かった。









ここの廊下は行く先が真っ暗で何も見えない。









私達の歩く音が暗闇に吸い込まれて消えていく。




























この歳になってその恐怖がまた襲ってくるなんて。














































さん…大丈夫ですか?」









コタの声で現実に帰る。



少し上を向いたら、心配そうなコタと目があった。





「ん…大丈夫だよ。」



私は精一杯の笑顔で答えた。





























でも。






「少しだけでいいから…こうしてていいかな?」



私はコタの服の裾を掴んだ。



何かを掴んでいなければ本当に独りになってしまう気がしてとても怖い。











するとコタは私の手を服から剥がし、代わりにギュッと手を繋いだ。












「大丈夫ですよ…独りじゃないですから。」



「…ありがとぅ。」











コタの優しさに涙を堪えながら消えてしまいそうな小さな声で言った。



















私は独りじゃない。










でも皆はどうしてる??











そんな心配が頭をよぎる。









早く皆を見つけなきゃ。









早くしなきゃ皆、闇に連れて行かれてしまう気がする。







































コツコツと靴音を立てながら歩く。









すると私はある教室の前で足を止めた。
















「どうしたん??」








「具合でも悪いのか?」








私が足を止めたのは保健室の前。
















「…徹くんの手を手当てしたい。」









私を庇ってくれた手。








血が滲んでたり、まだトゲが刺さってたりする。










「あ??いらねぇよ。」








「駄目だよ!!…テニスに支障が出たら嫌だもん。」














私は徹くんの言葉を無視し、恐る恐る保健室のドアを開いた。












































「保健室の匂い…やな。」









ドアを開けたとたんに、独特の薬品臭が立ち込めた。









春くんが一足先に入り当たりを見回す。


まだここには危険な感じはしない。











私は春くんの次に続いて教室に入り、薬品棚を漁った。










どれもかなり古い。



私はひとまず引き出しから毛抜きを取り出した。













「徹くん。手を出して。」









私は近くの椅子に座らせて、私は地面に跪いた。



暗くてよく見えないけど、見える範囲のトゲを抜いていく。


次に私は自分のポケットからハンドタオルを取り出し、保健室の水道で濡らした。












その間、春くんは教室を見回し、警戒する。










「コタ。あそこの包帯取ってくれる??」









私より遥かに高い薬品棚の上の方にある包帯をコタは軽々と取ってくれた。


私はお礼を言うとそれを受け取り、徹くんの手をタオルごと包帯で巻きつけた。




「…なぁ。大げさ過ぎねぇか。」



徹くんは不自由になった手を見ながら呆れ気味に言った。




「消毒も湿布も無いから、せめて痣のところを冷やしとかなくちゃ。」









そんなもんなのか。っと徹くんは手を掲げた。











「まぁ。ありがとな。」





































「…ごめんね。」









私なんかが徹くんにお礼を言われる筋合いは無い。









私は申し訳なくなって徹くんから目を逸らすために下を向いた。









「お前なぁ。。。」

























徹くんの呆れた声と同時に
おでこにパチンと軽い痛みを感じた。











「『ありがとう』と言われたら『どういたしまして』だろ。」











そう言って、私のおでこを軽く撫でてくれた。









「次、謝ったらデコピン2回なっ。」



楽しそうな徹くんの笑顔。




「10回謝ったら…」



「デコピン10回やな。」



「おでこ真っ赤になっちゃいますね♪」










他愛もない会話なのに、自然に出た私の笑顔。











それを見た皆はホッとしたのいつも以上に柔らかい笑顔を私に向けてくれた。







こんな何気ない日常に戻りたい。




































そう強く願ったのも束の間。






















校庭の木々が危険を知らせた。













「…次は何なんですか!?」







私達は身を寄せ合い、周囲を警戒する。











すると保健室の真っ暗な隅で
がしゃんと音がした。












全身の筋肉が強張る。

















がしゃんがしゃんという規則正しい音は何かが歩いている証拠。













徐々にその姿が月明かりに照らされ露わになる。
















































「…人体模型??」

























目の前には、
埃まみれの人体模型が立っていた。























…なぜか左の腕がない。


















その子はゆっくりではあるが着実に近づいてくる。








ジリジリと追いやられ、私達の後ろは壁に塞がれた。







































「…ぅ、で。」














「えっ??」





























「腕が…欲しぃ…」



















するとさっきまでのゆっくり動いていたのが嘘だったかのような速さで
私の左手を掴んだ。











「っ、やだ!!」











力が強すぎて私の力じゃ振り解くことが出来ない。















強く引っ張られ、前に倒れ込んだ。









床に膝をぶつけ、鈍い痛みが走る。













「ちょい!放せや!!」










皆が人体模型を私から引き剥がそうとするが、
人体模型は私の腕を放そうとしない。









むしろ、徐々に力が強くなっている。



















痛いっ!!












私は痛みに顔を歪めた。



















「…クックックッ…」












































の腕が、手に入る…。」





















「っざけんな!!」












目の前の
人体模型は突然5メートルくらい飛んでいった。









飛んでいったのではなくて、飛ばされたというほうが正しい。








あまりにも突然の事過ぎて、私の頭は理解できずにいる。











だだ、私の腕にはまだ
人体模型の右腕が残っているということだけは感覚でわかった。
















っ!大丈夫か!!」









すごく聞き覚えのある声が上から降ってきた。





そのとき、私はこの人が人体模型を蹴り飛ばしてくれたと理解できた。


















聞き間違えるわけない。





















「…ク、ロちゃん。」

















突然登場したクロちゃんは私の目の前にしゃがみ、人体模型の腕を取って、遠くへ投げてくれた。

















「虎黒先輩!!」









「よぉ。遅いお出ましだな。」










「…この学校教室多すぎなん、」





「クロ、ちゃん…無事で、よかっ…た。」


















もう泣かないって決めていたのに、クロちゃんの無事を確認できて思わず我慢していた分の涙が溢れ出てきた。











「待たせたな。不安にさせてごめんっ。」











そんな私をクロちゃんは子供をあやすかのように、ギュッと抱きしめて頭を撫でてくれた。


































「っ見てください!!」









突然声を張り出したコタの指す方向には人体模型が横たわっていた。














蹴られた拍子に、お腹の部品が飛び出したみたいで散らかっている。





















…模型なのに心臓や腸が脈打っている。













「気持ち悪っ。」









「…えぇもんやないな。」


















手が無いせいで起き上がることも出来ないみたいだ。




取れた右腕はまた徐々に私に近づいてくる。



















「こいつ、諦め悪ぃ。。。」



「…全くだな。」



「今のうちに行きましょう。」


「そやな。」
















皆が保健室から出て行く。









私は人体模型をただ見つめていた。























無表情だけど
悲しそうな顔。




何かにすがりつきたそうな
千切れた手。











やけに胸が痛む。





















「おい。行くぞ。」




「っあ…うん。」





















私は皆に続いて保健室をあとにした。












































気付いたときには風はとっくに止んでいて、いつもの静けさを保っていた。










…腕見せてみ。」










私はクロちゃんに言われた通り、腕を差し出す。



掴まれていた部分が青く、
みたいになっていた。










「うっわ…むっちゃ痛そうやん。」










こんな風になっているなんて自分自身気が付かなかった。










「大丈夫だよっ。」









っとは言ってみたもの、徐々に痛みが回ってくる。








すると腕に
ヒヤッとした何かが当たった。

















…私のハンドタオルだ。















「痛いだろうが。」










徹くんは自分の手に巻いてあったのタオルを、私の腕に手早く包帯で巻きつけていく。









「っでも徹くんの方が…」









「言っただろ。俺は慣れてるから平気なんだよ。」


























「…に痣が残る方がよっぽど痛てぇ。」











そう呟くと、包帯巻きも完了した。











「…ごめんね。」














すると、
パチンパチンと2回おでこに痛みが走った。
















「次言ったら2回だって言っただろ。」





私はおでこをさすりながら皆を見回す。












「どんどん回数増えてくで。」








「腕より痛くなるかもしれないですね。」








「何っ?そんなルールなのか!?」












一人話についていけないクロちゃんはキョロキョロしてる。












思わず笑いが込み上げた。
























「良かった。」









「ちゃんと笑えてんじゃん。」









「この調子なら大丈夫やな。」









「俺達が付いてますしね。」

























とっても心強い。












「ごめっ…」




















皆の視線を一度に浴び、思わず口を押さえた。









目を閉じ、大きく深呼吸してからもう一度口を開く。







































「ありがとっ♪」




















皆はただ満足そうに「どういたしまして♪」と言って笑った。


















































着実に皆が集まっている。









このまま順調にいけばいい。











そうしたら皆でここをいち早く逃げ出そう。




















真っ暗な長い廊下は私のそんな考えをいとも容易く飲み込んでいった。



























































雰囲気ぶち壊しコメント








人体模型は悲しい気がします。
モカの小学校には人体模型は保健室に居ました。
…普通は理科室なのかなぁ??わかんねっ。

クロちゃんとの合流です。
やっぱり兄弟に会うと安心しますよね。
デパートで迷子になった時とか。




<2006,11,23>

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